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尻まくりピンタ

小学校六年生になって、卒業まで数か月といった頃だろうか。
中学に上がった先輩が、小学校に遊びに来た。

俺らは、その先輩から話しを聞いた。
「中学に上がったら、恐い先生がいるぞ、気をつけろよ」

「なんですか」
「あのな、勉強が出来ないとな、尻まくりピンタをする先生がいるんだよ」

なんだ尻まくりピンタって。
先輩は、饒舌に語った。

「あのな、国語を教える女の先生がいて恐いんだよ」
詳しく聞きたかったが、先輩はおしゃべりで、次から次へと話が出てくる。

小学校でも勉強はできたが、中学に上がっても学年で一番と言っていた。
六クラス約二百四十人のトップだ。

凄い。
話しも上手だ。

俺があのーと言っている間に、多分百語はしゃべる。
本当だ。

頭も達者なら、口も達者だ。
先輩は、言いたい事を言いまくって去っていった。

「どうすんだよ、俺中学行きたかねぇよ」
気の弱い友人が言った。

俺も同調した、心の中で。
もう、口を聞けるける状態になかった。

恐くって恐くって、心が何処かに飛んでいた。
「上善坊、どうした」

友人の言葉で我に戻った。
「俺も行きたかねぇよ中学」

家に帰って姉ちゃんに訊いた。
車屋の先輩が、中学に恐い先生がいるって言ってたよ、知ってる?

車屋とは先輩の家の家業である。
姉ちゃんが言った。

知らない。
尻まくりピンタの先生だよ、女の先生。

あっ、あの先生のこと知ってんの。国語の先生でしょ。
そうだよ。

でも、尻まくりピンタって知らないといった。
担任でもないし、教わったりもしていないからだ。

恐さが増した。
毎日が妄想の日々だった。

ズボンを下ろされ、パンツも下ろされ尻を叩かれるのか。
それとも、パンツまでで、ほっぺたをピンタされるのか。

下手したら、俺に直結する問題だ。
普通の精神状態でいられなかった。

俺は勉強が出来ないんだ。
真っ先にやられるでしょ、尻まくりピンタ。

恐かった。
今でも、その感覚を思い出す事がある。

当時、飯がのどを通らなかった。二、三日。
緊張を抱いたまま、中学に上がった。

一クラス四十人、学年六クラスまであった。
先輩と同じだ。

廊下で先輩に会った。
「上善坊、良かったな、尻まくりの先生で」

当選してしまった。
尻まくりに。

下痢で二、三日休んだと思う。
先生の名は、相沢弘美

先生は、明るくて楽しい先生だった。
これが尻まくりの先生か。

そう疑うくらい、いい先生だったのだ。
学年中期に試験があった。

国語の試験でこうあった。
物事の動作などを、人間に例える方法は。

だったと思う。
俺は、擬人法と書いて消した。

自信がなかったので、消しゴムで消して、空欄で終わった。
しかし、返って来た答案用紙には、まるがしてあった。

確かにまるが付いている。
消しゴムで消した後の上にまるが。

そうなのだ、先生は知っていて合格のまるをくれたのだ。
ただ、何も言わずに。

先生の心の内がわかった。
自信を持ちなさいと。

そうだ、多分そうに違いない。
先生は、俺の心を知っていたのだった。

当時は、まだ茶色のわら半紙が多かった。
勿論その答案用紙もわら半紙だ。

俺は、その答案用紙を三十年以上も持っていた。
ボロボロになり、泣く泣く捨てたが、俺の宝物だった。

物は無くなってしまったが、思い出は確かにこの胸にある。
心優しい先生の思い出が、この胸に。

ある時、こんな事もあった。
掃除当番で図書室を担当した。

俺はそもそも掃除は真面目に行う人間だ。
その日も真面目に掃除をした。

ほぼ終わった。
その時だ、友達の一人が遊び始めた。

「上善ちゃんもやってみろよ気持ちいいよ」と。
友達は大きな机の上で、平泳ぎの真似をした。

本当だ、気持ちよさそうだった。
根がバカタレだから、つい真似をした平泳ぎを。

でも気持ち良かったのは最初だけ。
二メートルぐらい進んだ所で校長先生が入って来た。

怒られなかった。
ニコニコして、図書館を周り出ていった。

みなで顔を見合わせた。
緊張したな、怒られると思ったよ、良かったな。

口々に言った。
その日の午後の、国語の授業前に、相沢先生は怖い顏をして言った。

「コラっ、今日、図書室で掃除していた男子、机の上で平泳ぎをしていたのは誰だー」
迫力があった。本気だ。

「前に出て来い」
俺は正直に前に出た。

そしてもう一人。
「これだけか」

しばらくして、もう一人前に出た。
全員で三人、黒板の前に立たされた。

先生は言った。
「みんな真面目に掃除している中、遊んでいるとは何事か、
人の目を盗んで、コソコソする人間は、先生大嫌いだ」

「歯を食いしばれ」
と言うなり三人の頬をピンタした。

痛かった。
親以外、手を上げられたのは、先生が初めてだ。

先生の顔を見たら泣いていた。
何故か胸が苦しくなった。

悪い事をして、先生に対しこの胸が・・・・。
俺の痛みよりも、先生はもっと痛かったに違いない。

俺は恨んだ校長を。
何故、あの時、自分で叱らなかったのか。

平泳ぎしてたら言えよな、綺麗になりますね、ぐらいの気の利いた事を。
バカヤロー。

校長と自分に放ったバカヤローは、今でも俺の心に響いている。
そして生徒を叩き、自分も泣いていた先生の強くて優しい教えを、

僕は一生忘れない。

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