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父親がいないという事( 第三章 )

役所を辞めた後、建設の内装業を始めた。
手先が他の人より器用だったので、仕事も直ぐに覚えられた。

楽しかった。毎日、現場に行くのが楽しみで仕方なかった。
建設の現場は、様々な業種がある。もう、天国だと思った。俺には向いていると。

ある現場で,俺を魅了した現場監督がいた。
両手の中指と小指がちょっと短かった。そうだ、元あっちの社会の人間だ。

とても良い人だった。足抜けするのに多くの指が犠牲となった。
その現場に入ったのは初夏だった。とても暑い日が続いた。

その監督は、毎日午後三時になると飲み物やスイカ、、アイスクリームなどを俺達
若い者のために用意してくれた。月曜日から土曜日まで毎日だ。

多い日には七人もいた。普通は逆だ。
「監督さん、お茶でもどうぞ」ってな具合に。

監督は、ある県の港町の出身だ。言えばすぐに分かる有名高校の元球児だ。
甲子園にも出場した。セカンドを守ったそうだ。

初戦で敗れてしまったそうだが、凄いと思った。監督は言っていた。
甲子園に出て来る者達は、みな力が違うと。

守備に回るたびに祈ったそうだ、俺のところには飛んでくるなと。
三時になるとジャンケンをした。飲み物の種類を争うためだ。

監督が、パーを出すたびにからかった。「それ、グーですよね。僕の勝ちです」と。
「バッカヤロー」監督が言う、微笑みながら。

両親は、二人とも公務員だ。父親が国家公務員で母親が高校の先生。地方公務員という訳だ。
何故だろう。この家から二人のあっちの社会人が誕生したのは。

監督は、三人兄弟の二番目。一番目は、この会社の社長さん。二番目が監督。
三番目も、元あっちの人。いま大工さん。

兄貴が一番しっかりしていると言っていた。  ある日、監督が言った。
「お兄ちゃん、アンタみんなと違うな。言葉遣いといい、挨拶といい

良い家庭で育ったんだな」と。  俺は言った。「違うんです。片親で育ったもんで
母が片親だからと、世間から後ろ指をさされないように厳しかったんです」と。

「そうか、立派なお母さんじゃないか。これからは、お兄ちゃんがお母さんを支えなきゃダメだぞ。
俺みたいに、道を外れたらダメだ」 とても真実味がある。  「はい、わかりました」

「いいか、お前の会社とはこれからも付き合いがある。ずっとお兄ちゃんの事、見てるからな。
頑張れよ!」 とても温かい気持ちになれた。

小学校の時、友達にはお父さんがいないとなじられ
教師には、父親がいる家庭の気持ちは分からないと、冷酷な言葉を浴びせられ

何だ、この差は。人の道を外れてきた人間の方が温かいじゃないか。
どんなに立派な職に就いても、おたんこなすはおたんこなすなんだよ。

監督のように道に外れてきた人間でも、何時もあったんだ。
優しい心が、人を思いやる心がずっとあったんだ。心の奥にずっとずっと。

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